『誰も知らない』※ネタバレ有
『誰も知らない』
製作国:日本
公開年:2004年
上映時間:141分
監督・脚本:是枝裕和
【あらすじ】
実在の事件『巣鴨子ども置き去り事件』を題材にして映像化された作品。
2DKのアパートに越してきた母親のけい子(YOU)と明(柳楽優弥)。
実際には明以外に3人の子どもがおり、それをひた隠して生活する家族の姿を描く。
次第に母親は不在がちになり終いには姿を見せなくなってしまう。
そこから残された兄弟だけの生活が始まる。
記念すべき最初の映画は何にしようと考えたが、最近観た映画の中で良かった作品だったので『誰も知らない』に決めた。
前提として自分は是枝作品が好き、ということ。
こういう映画が苦手な人も勿論居ると思う。
私の友人は「眠くなる」と一蹴した。笑
なので感想は「是枝作品好きが前提にあること」を念頭に置いて見て頂きたい。
これは「見るべき映画」だと思う。
けれど映画や書籍、舞台なんかで精神的にやられる人が少なからず居ると思うが、そういう方にはお勧めできない。
なぜなら自分が割と精神的にやられてしまったから。笑
描写がキツいとかは一切無い。ただ心が重くなる人も居るだろうという話。
子どもの世界というのは非常に狭い。
知っていることや経験が少ないせいだから当たり前だ。
だからこそ大人の言うことは絶対で、特に親の言うことというのは神様の言葉のように影響力がある。と思っている。
大人になるとそういうことは大抵忘れてしまいがちだ。
大人の何気ない一言とか行動って結構覚えてません?そんなことないか。笑
母親が出て行った後の子どもだけの奇妙な生活を見て
「どこかの大人に助けを求めれば良かったじゃないか」
と思う人も居るかもしれない。
でも前述した通り「子ども達の世界は狭い」。
その狭い世界で生きることが当然だったから出口があるのすら知らなかったのだと思う。
子ども達だけの生活は奇妙で見ていて切なくなる。
友達が欲しくてお金の管理をしていた長男がゲームを買う場面。
家は春休みの間だけたまり場になり、学校が始まると次第に誰も来なくなる。
そこで小さく囁かれる「アイツんち臭いんだよ」という言葉。
子どもってこういうとこある。純粋で鋭く的を射る言葉を使う。
そしてこういうどうでもいいことが発端で友達だった子を邪険に扱ったりする。
段々と壊れていくピアノのおもちゃ。
自分で貯めていたお金を生活費にと渡す長女。
底抜けに元気な次男。それを疎ましく思う瞬間ができる長男。
意味もなくベランダで育てる草花。
女の子に色気づく長男。
汚い部屋。そこに何もすることが無くだらしなく生活する子ども達。
次女の為に初めて万引きをする長男。
子ども達だけでひっそりとあげるお葬式。彼等なりの弔い。
全部、全部が悲しくて涙が出てくる。
けれどこれは知らないどこかで起こりうる話で、実際今もこういう家庭があるのかもしれない。
これは文字通り「誰も知らない」話なのだと思う。
この映画は是枝作品らしい良い意味で単調な物語なのだけど、苦手な方も主演の柳楽優弥の芝居を見るだけでも価値があると思う。
この柳楽くんの演技は本当に凄い。
別に芝居に関して精通してる訳でも無ければ、そういう関係の仕事をしている訳でも無いけれど素人目に見ても凄い。
普通の子役の演技は棒か逆に芝居臭い芝居をするもんだけど、この柳楽優弥は違う。
目の前に等身大の男の子が居るのだ。
明は確かにそこに存在して、実在して、目の前で生きている。
一人の男の子のドキュメンタリーを見ているようで、この芝居をした柳楽くんも凄いし引き出した監督も凄いと思う。
見る前まで疑ってたけど「こりゃカンヌで賞取るわ」と納得の演技。
素晴らしいです。
特に個人的に好きなのがラーメン(だったかな?)を食べたいと言った次男の為に、長男がほぼ底をついた生活費からカップラーメンを買うシーン。
せっかく買ったラーメンを家に持って帰ったにも関わらず次男はそこに居ない。
外を探し回れば近所の子どもとラジコンで楽しそうに遊んでいるという。
そこに長男が苛立ちを隠せぬまま「おめぇがラーメン食いたいって言ったんだろ!!!」とラジコンを蹴飛ばす。
これ、ほぼ引きで撮ってるのだけど本当に良い。
ほんとにあのくらいの世代が純粋に怒っている姿そのものなので見て欲しい。
あれがほんとに芝居なのか、と思う。
あらゆる意味で「見るべき映画」なので未見の方は是非。
精神的に元気な時に見てください。笑
【こんな人にオススメ】
・是枝作品が好きな人
・ドキュメンタリー調の映画が好きな人
・フランス映画が好きな人